1. ホーム
  2. ハッテンボール
  3. コロナに翻弄される就活生。私はその一人だった

コロナに翻弄される就活生。私はその一人だった

コロナに翻弄される就活生。その一人だった私は、2021年8月、同級生と1年半遅れて新社会人になった。
今回は、私が有限会社ハッテンボールを選んだ理由について記していきたいと思う。

 

限界就活浪人生、誕生。

私の就活は、予定していたワーキングホリデーがコロナで流れるところから始まる。

20卒。スキルなし、やりたい職業なし。就職先への希望は「お金がしっかり稼げること」だけ。そんな就活浪人生が誕生してしまった。給与が良いらしい、営業や不動産の説明会にもなんとなく参加するが、どれもピンとこないまま月日は過ぎていく。

 

将来の夢は、取り扱い説明書を書く人(?)です

やりたい職業はなかったが、好きなことは沢山あった。文章を書くのはその一つだ。しかし私の場合、物語や人物の創作は、仕事にすると楽しめなくなる気がした。

ならば小説家よりも、既にある情報を抜き出して整理して、相手に合わせた文章を書く仕事に就きたい。どんな仕事があるだろう。うーん、そうだ、取り扱い説明書の説明文を書く仕事はないかな。なんて考えて調べてみたが、『説明文を書く人』なんて職業は存在しなかった。

そんな折に立ち寄った美術展で、コピーライターという仕事を知る。「キャッチコピーも、説明文を書く仕事に近いのでは?」そう思いコピーライターについて調べたところ、相手に合わせて相手が必要とする言葉で書かれる文のことを『コピー』と呼ぶのだと知った。
『取り扱い説明書を書く人』は、どうやら最初からコピーライターという仕事だったらしい。

 

最近の坊主、丸儲けできない件。

こうしてコピーライターになるべく活動を始めた。宣伝会議の養成講座を受け、広告会社の説明会に参加するうちに、よく出てきた言葉がブランディングだった。ブランディングとは、商品や会社にオンリーワンの個性を創り出し、伸ばすことだという。そのメリットは、市場でのポジションを確立することで顧客を獲得し、売り上げに繋げられることだ。それを知った私は「ブランディングこそ、求めていたスキルだ」と思った。

私の実家は田舎の小さなお寺である。家業を継ぎたくない理由はいくつかあったが、その一つは稼げないからだ。現代において、本気で救いや極楽のためにお経を唱える人は少ない。もはや寺院には形式的な葬儀と、観光くらいしか存在価値が無いのが現状だ。ナムナムと念仏を唱えていれば稼げる時代はもう終わったのである。この先、清水寺のような観光寺以外の小規模なローカル寺は早晩に廃れるだろう。先細りの未来が待ち受けている業界の一つ、それが寺社仏閣だ。

 

稼げるスキルは、読経よりもブランディング。

就活にあたり、お金がしっかり稼げることを就職先に期待していた。それは、寺の経営難も大金があれば解決できるのではないか?という非常にぼんやりした計画を持っていたためだ。しかし、なるほど、ブランディング。私は心の中でほくそ笑む。

門前の長女は習わぬ経を読めるものの、煩悩にまみれていた。お寺にはまだまだ資源が沢山あるのに、有効活用できていないのが現状だ。ブランディングスキルがあれば、寺を継ぐことなく、実家の資源を活用して、多くのお金を生み出すことができるのではないだろうか。そんな皮算用で、ブランディングに力を入れている会社のコピーライター職を中心にエントリーを出すことにした。

 

ヤバい会社(たぶん)へのエントリー。

こうしてある程度方針が定まってきた頃、有限会社ハッテンボールと出会う。しかし、正直に言ってしまえば、エントリーは後回しにしていた。就活にあたり、私は企業の給与や福利厚生、仕事内容などの採用情報を確認してから、説明会参加の優先順位を決めていた。しかし、ハッテンボールは会社情報が非常に少なかったのである。

見落としがあるのかもとホームページのあちこちを見て情報を探すが、出てくる情報はどれも首を傾げるものばかり。なぜか有限会社。なぜか大久保オフィス。社員10人未満なのに、なぜかグループ会社。

私は直感的に思った。「たぶんここ、ヤバい会社だ」と。求人情報が載っていないのも、労働条件が悪くて載せられないからではないかと考えたら合点がいく。そんなわけでエントリーを後回しにしていたのだが、コピーライターという職種は未経験への間口が狭い。開いている門戸には全て挑戦しようと、ある日ついにエントリーをしたのだった。

 

もしかして、この会社って……?

「この度はハッテンボールに興味を持ってくださりありがとうございます。プロフィールを拝見させていただきました所、市村さんのご経験やご興味に魅力を感じました。ハッテンボールが実際にどんなクライアントとどんな仕事をしているのか、簡単にご紹介させていただきたく、オンラインで1時間ほど、お話ししませんか?またその際に、ぜひ市村さんについてもお聞かせください。」

エントリーをして数日後、ハッテンボールからメッセージが届いていた。一斉送信用の内容で返信する他の企業と比べて、格段に丁寧な文章だと感じた。就職先を探すにあたって、Wantedlyというサイトを使っていたが、細かく打ち込んだプロフィールを見たと言ってくれたのもここだけだった。この時点で他の企業とは違いが出ている。それに、志望動機だけではなく応募者自身について訪ねるのも珍しい。業務は未知数だが、もしかしたら人をしっかり見てくれる会社なのだろうか。

 

マンツーマンの会社説明会

こうして説明会に参加することになった。普通、説明会といえば複数人の参加者を集めて同時に開催するものが、ハッテンボールの場合は一対一だった。良い意味でラフな空気感の中、質問に対して、雑談も交えて回答される形で会社説明は進んでいく。いわゆる多くの説明会は「会社プレゼン」だとすると、本当に会社について説明する会という感じだった。10を超える質問の一つ一つにも採用担当の北さんは丁寧に答えてくれた。

ホームページに具体的な採用情報が無かったのは、仕事の内容や業務システムを求職者に齟齬なく伝えるためなのだという。確かに、発注から制作までを一貫して行うハッテンボールの仕事は、「コピーライティング」と一言ではまとめられない。とはいえ、制作の全てを自社で行っていることを自社の特徴としてあげる会社は少なくはない。しかし、それだけでは終わらないハッテンボールだけの特徴に興味が湧いた。

 

思ったほど、ヤバい会社ではないのかも。

私が説明会を受けた中で、ハッテンボールでしか聞かなかった特徴は2つある。
ひとつは、クライアントとの契約の仕方についての特徴だ。クリエイティブの仕事は普通単発で請け負うのに対して、ハッテンボールは固定客を作っている。つまり、一つの仕事だけ請け負って関係が終了、となるのではなく、それだけ一つの企業としっかり向き合う会社だということだ。

もうひとつの特徴は、相談や提案の際に社長や取締役との直接のやりとりが大部分を占めるということだ。会社の意思決定を行う人物と取引をすることで、本当にクライアントに必要な提案を齟齬なく伝えることができるという。最初に抱いていたイメージとは裏腹に、実はまともな会社なのかもしれない。失礼な印象を改めた私は、選考に進もうと思った。

 

「みんな人生を豊かにするために働いてるからね」

一次面接を担当してくれたのは小池さんと外山さんだった。ふたりは若く見える外見に対して、とても落ち着いている印象だった。面接は、説明会同様に、互いに質問して答えていく形で進んでいく中で、外山さんの発言が印象的だったのを覚えている。「うちは、みんな自分の人生を豊かにするために働いているからね」というものだ。

さまざまな会社の説明会に参加するうちに、ブランディングやコンサルタントを請け負う会社の、ある課題に気がついていた。それは、顧客ファーストがいきすぎて社員の生活が削られてしまうことだ。「自分より人のため」はある種の美徳かもしれないが、従業員が待遇に満足できなければ、本当に良いサービスは提供できないのではないだろうか。そう感じたのは、その状態に陥っているなと感じる企業が、実際にいくつかあったからだ。そのため、こうして社員自ら「自分の人生のために働いている」と堂々と言える空気感に、非常に惹かれた。

外山さんはもともと、ハッテンボールに依頼をした会社にいたという。その会社が持っている1番の強みを見つけて社外に発信していく、というハッテンボールのスタンスと、実際に会社が良くなっていく様子を見ていて、ハッテンボールに入ったという。この頃には、危険な会社ではないか、という当初のイメージは完全に払拭されていた。

 

従来型では寺もクリエイターも食べていけない。

二次面接の担当は、創立当初からの社員である内田さんと小園さんだった。一般的にベテラン社員というと重々しい雰囲気や威圧感がありそうなイメージだが、どちらも気さくな方達で、リラックスして話ができた。

このときは主に社内の空気感について深く話を聞くことができた。この会社では仕事は個人のテンポに任され、ゆるやかで自由なのが社風だという。つまり稼ぎたければガツガツ働いて稼ぐこともできるし、余裕を持って働くこともできるというのだ。自由な社風は、本当にその通りだと入社してから実感する。

仕事の面白いところは、ふわっとした悩みを抱えて相談に来るクライアントの課題を紐解いてビジネスにして行けるところだ、と内田さんは語っていた。「今は従来型のクリエイターが食えなくなっている。これからは、自分で仕事とって来れて、自分で仕事をこなせる人が強いんだよね。なんとなくの相談をクリエイティヴに昇華できるクリエイターが食っていける」という話には、どことなく、従来型の寺が食えなくなっている寺社業界と通ずるものを感じた。

 

実家のブランディング、いいね!

後日数えたところ、2回の面接でした質問の数は30を超えていた。中には稚拙な質問や失礼な質問も混ざっていたかもしれない。だがどの面接段階でも、ハッテンボールの社員は一人も嫌な顔をすることなくそれぞれの考えを真剣に答えてくれた。

社員同士の仲も穏やかで、話しやすい人が多い印象を持った。そのため、私がやがて実家をブランディングしたい目標があることも、説明会の時点からすんなりと伝えることもできた。副業や独立の話にも繋がるこの目標を話すことは、会社によってはそれだけで落とされかねないものである。ただでさえ就活浪人生というハンデを負っている上に、間口が狭い職種を目指している者としては、余計なリスクを負うだけかもしれない。それでも、ハッテンボールでは各面接で担当してくださった社員も社長も、この目標を「すごくいいね!」と肯定的に捉えてくれた。

人生の目標を話すことができる空気があるというのは、会社を選ぶ上でとても大きなことだった。さらに、目標の為にどんなスキルがこの会社で身につけられるかを同じ目線で考えてくれたことが、「どうしてもこの会社に入りたい!」と思う決め手になった。

 

入社1ヶ月、今でも待ち受けは合格メールです。

7月2日、最終面接が終わり、3時間後に内定の連絡をもらった。嬉しすぎて、合格メールを待ち受けにし、新大久保の夜景をバックに踊った。ハッテンボールは危ない会社ではなかったが、私は危ない奴に見えたかもしれない。

入社して1ヶ月が経った。毎日、業務をこなしながら、ライティングの手法から社会でのマナーまで、様々なことを丁寧に教えていただいている。着実に自分の課題が見え、今はそれを乗り越えるべく、パソコンに向かって頭を抱える日々だ。そんな生活の中で、当初に感じていた疑問もいくつか解消された。

まず、なぜハッテンボールは有限会社なのかについて。2006年の法改正以降、有限会社は新規設立できず、希少価値があるのでそのままにしているらしい。そして大久保にオフィスがある理由について。これはリモートワークの体制が整いオフィスの縮小を行うにあたり、程よい間取りがたまたま大久保だったためだという。10人未満の社員でなぜグループ会社なのかについては、まだ知らない。今度、みんなに聞いてみようと思う。

PERSON